オートチェスはなぜ面白いのか,リスクとリターンの観点から見る.

何故Dota2 Auto Chessが面白いのか.

リスクを冒して、リターンを得る!

これがゲームの本質だ、ということです。

news.denfaminicogamer.jp

桜井政博は,ゲームの面白さの源泉について以上のように述べている.

つまり,プレイヤーがある行動のリスクを認識し,その上で行動を決断し, 結果としてリターンを得ることがゲームの面白さの本質であるということだ.

このような経験をプレイヤーにさせるには,どのようなゲームデザインが必要なのだろうか.

まず必要なのが,複数の選択肢のトレードオフである. プレイヤーが取りうる選択肢それぞれに明確な利点と欠点があり,正確な最善手を把握するにはプレイヤーの力量が必要なこと……これによって,プレイヤーがリスクを認識し,かつリスクのある行動をとることが可能になる.

もう一つ必要なのが,明確なフィードバックである. 自分の下した選択が実際にリターンを得ているのか(例えば,攻撃によって相手の体力が減ったのかなど),認識できないと面白くない.

従って,トレードオフとフィードバックがあることがゲームを面白くする際に重要であることがわかる.

最近,私がはまっているクソ面白いゲームにDota2 Auto Chess(以下オートチェスと呼ぶ)がある.(ゲームの紹介は省略する.) それが何故面白いのかを,上述の「トレードオフとフィードバック」の観点から説明する.

トレードオフ

オートチェスにおいて自分ができる行動は,「駒を売買する」「ガチャを回す」「経験値を買う」「駒を配置する」の4つである.これらの行動によって,以下の3つのトレードオフが生じる.

  1. 戦略.どのシナジーで戦うか.
  2. 資金の管理.いつ金を使うか.
  3. 布陣の決定.どこに駒を配置するか.

どのようなトレードオフなのか具体的に説明する.

戦略

このゲームでは一つの駒に種族とクラスがついており,おなじ種族またはクラスの異なる駒を複数場に出すと特殊な効果が発動するようになっている. 同じ駒の場合これらの効果が付いていた方が強いので,結果的に特定のクラスまたは種族の駒をあつめる戦略を行った方が強いことになる.

ではどの種族/クラスの駒を用いるか?ここにトレードオフが存在する.

まずは自分の引きである.引いてない駒を使った戦略は立てることができない.自分の今まで引いてきた駒は何か?買った駒は何かに基づいて戦略を立てることになる.

そこに,「相手の持っている駒は出にくい」という設定が存在する.一つの駒は一定枚数しか存在しないので,相手と戦略が競合すると同じ駒を取り合うことになり,引きが難しくなる.

最後に,相手の戦略との兼ね合いがある.相手がアサシン戦略を行っている場合,後衛が多い戦略(ハンター・ウォーロック・メイジ)はむずかしくなりそうだ.相手がエルフの場合,トロルは相性が悪い. 相性が悪い戦略だった場合,相性の悪さを覆すほどの駒の強さがあるかどうか,何か特効薬となる駒はあるか,戦略を変えるか,決断が迫られる.

資金の管理

駒を購入する・駒を引き直す・経験値を得る.これらの行為をするためには資金が必要である.この資金は,毎ラウンド毎に5G+自分の持っている資金10Gにつき利子1G(最大5Gまで)+勝利で1G+勝利または敗北を重ねると1~3G手に入るようになっている.

この有限の資金をどのように管理するか.

まず一番重要なのが,利子である.できる限り50Gを持ち続け,最大の利子をえるようにし,残りのお金でやりくりするのが肝要だ.

しかしお金を貯めると,自分の駒を強化するためにお金を使えなくなってしまう.そうすると試合で勝てなくなり,勝利の1Gや連勝ボーナスを得られなくなってしまう.

素早く金を貯めるか?それとも強化にお金をつかうか?これが序盤におこるトレードオフである.

中盤においては,利子を経験値の購入に使うのか,それとも駒の引き直しにつかうのかという選択がある.出てくる駒のレアリティはレベルが高いほど良いので,基本的には経験値の購入に使いたいが,そうすると駒の強化が満足にできず負けてしまうかもしれない.駒の引き時を見極める必要がある.

終盤になってくると,自分の体力が減ってゆき,敗北の危機が迫ってくる.このとき,あるタイミングで利子を度外視して金を使い,強化を優先する必要がある.ではいつ資金を消費すべきなのだろうか.もちろん早すぎると,利子を無駄にしてしまう.しかし強化しないと敗北するかもしれない.ここにもトレードオフが存在する.

布陣の決定

戦略を決め,資金を管理して駒を強化した.最後に必要なのが,布陣の決定である.これは自分の構成と相手の構成を見て判断する必要がある.

一番わかりやすいのがアサシンだ.アサシンはチェス盤を一飛びし,一番奥のマスにいるキャラを攻撃しようとする.相手のアサシンから自分の後衛を守るにはどうすればいいだろうか.一番わかりやすいのは,前衛と後衛をひっくり返すことである.しかしこの場合,相手がウォリアーやナイトであった場合,後衛が押しつぶされることになる.対戦相手はランダムに決定されるので,裏目がでないように配置しなければならない.

上述の3つが主なトレードオフである.オートチェスでは序盤中盤終盤と変化する戦況を前に,「リスクを冒して決断を行う」必要があることがわかった.

フィードバック

自分が決断をした.ガチャを回した.駒を強化した.行動の結果はどのように現れるだろうか.駒を強化した場合において,すぐ現れる変化から順番にみていこう.

駒を買い,全てがうまくいった人

まず,駒を買えば金が減り,駒が手に入る.3体揃うと,1体のより大きくかっこよくて強い駒が手に入る.30秒たつと,即座に戦闘が始まる.スキルが強化されている.体力も上がっている.強い.相手の駒が,一体,一体と倒されていき,試合に勝利した.

勝利ボーナスが手に入る.それによってより多くの経験値を得ることができ,より早く強い駒にアクセスできるようになる.連勝する.盤石の体制を敷いた僕は,最初に想定していた構成を完成させ,最後の一人を倒し,ゲームに勝利した.

うまくいくと上のようにフィードバックを得ることができる.はじめは見た目の変化が,次にスキル等の反応が得られ,ラウンドの勝利に繋がる,それが資金・戦力の勝利に波及してゆき,最後にゲームの勝利に繋がる.一つの選択が全体に波及してゆくのがわかる.

個人的に重要だと思うのが,30秒の準備時間での選択が,即次の戦闘の結果として反映されることだ.これによって自分の選択が正しかったフィードバックが得られ,次のラウンドの判断に繋がってゆくことになる.

まとめ

戦略を決め,資金を運用し,布陣を決める.その結果がすぐにラウンドの戦闘に反映され,資金・戦力差として長期的にはゲームの趨勢を決めてゆく. 準備と戦闘という短いサイクルがそのまま「リスクとリターン」のサイクルとなり,ゲーム全体に波及してゆくという過程,これはルールズ・オブ・プレイでいう「意味ある遊び」が生じる過程そのものであり,だからこそ,オートチェスは面白いのだろう.

オートチェスが面白いのは,短いラウンドを繰り返す構成と,そのラウンドにおける決断の結果がゲームの勝敗に波及するという構成にあった.

参考資料

引用した記事 news.denfaminicogamer.jp

フィードバックの時間軸をベースにした考察は下記を参考にした. note.mu

「意味ある遊び」についてはルールズ・オブ・プレイに載っている.

https://www.amazon.co.jp/%E3%83%AB%E3%83%BC%E3%83%AB%E3%82%BA%E3%83%BB%E3%82%AA%E3%83%96%E3%83%BB%E3%83%97%E3%83%AC%E3%82%A4-%E2%80%95%E2%80%95%E3%82%B2%E3%83%BC%E3%83%A0%E3%83%87%E3%82%B6%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%81%AE%E5%9F%BA%E7%A4%8E-%E3%80%8A%E3%83%A6%E3%83%8B%E3%83%83%E3%83%88%EF%BC%91%EF%BC%8F%EF%BC%94-%E6%A0%B8%E3%81%A8%E3%81%AA%E3%82%8B%E6%A6%82%E5%BF%B5%E3%80%8B-Katie-Salen-ebook/dp/B07PG499J8/ref=sr_1_2?__mk_ja_JP=%E3%82%AB%E3%82%BF%E3%82%AB%E3%83%8A&keywords=%E3%83%AB%E3%83%BC%E3%83%AB%E3%82%BA%E3%83%BB%E3%82%AA%E3%83%96%E3%83%BB%E3%83%97%E3%83%AC%E3%82%A4&qid=1557278038&s=gateway&sr=8-2

簡単に下記にまとめておいた. ルールズ・オブ・プレイにおける「意味ある遊び(meaningful play)」 - videogamestudies